英雄がいなくても続く組織へ――『銀河英雄伝説』から考える、リーダーと人を活かす組織
もし、あなたの会社に100年に一人の天才が現れたら、組織は幸せになるでしょうか。
圧倒的な決断力を持ち、未来を見通し、優秀な人材を集め、古い制度を次々と改革していく。
そんなリーダーがいれば、会社は大きく変わるかもしれません。
けれど、その人がいなくなった後はどうでしょう。
田中芳樹さんの長篇SF小説『銀河英雄伝説』を読んでいると、
これは宇宙戦争を描いた物語である以上に、
「人と組織は、何によって動くのか」を問い続ける物語のように思えてきます。
二人の天才が見ていた、まったく違う世界
『銀河英雄伝説』の中心にいるのが、
銀河帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムと、
自由惑星同盟のヤン・ウェンリーです。
二人とも、疑いようのない天才です。
しかし、同じ「優れたリーダー」でありながら、
その根底にある考え方は驚くほど違います。
ラインハルト
- 腐敗した古い秩序を変える
- 能力ある人材を積極的に登用する
- 自らの意志で未来を切り拓く
- 強いリーダーシップによって組織を前進させる
ヤン・ウェンリー
- 権力そのものを疑う
- 英雄に依存する社会を警戒する
- 歴史という長い時間から現在を見る
- 一人の天才より、制度が続くことを重視する
「良いリーダーがいる組織」と
「良い組織」は、本当に同じなのだろうか。
ラインハルト――「自分が世界を変える」という力
ラインハルトの魅力は、何といっても圧倒的な意志です。
生まれや家柄によって人の価値が決められる古い社会を嫌い、
能力のある者を登用し、
自らの力で世界そのものを変えていく。
しかも、ただ権力を欲しがるだけの人物ではありません。
権力を得た後には改革を行い、
人々の生活をより良いものにしようとします。
だからこそ、多くの優秀な人材が彼の周囲に集まります。
「この人となら、新しい時代をつくれる。」
そう思わせる力。
それは、リーダーにとって非常に大きな才能でしょう。
企業でも同じです。
創業者が強烈なビジョンを語り、
誰よりも働き、
誰よりも決断し、
誰よりも顧客を理解している。
そんな経営者のいる会社は、驚くほど速く成長することがあります。
けれど、ここに一つだけ難しい問題があります。
その組織の強さは、「組織の強さ」なのか。それとも「その人の強さ」なのか。
ヤン・ウェンリー――英雄になりたくない英雄
一方、ヤン・ウェンリーは少し不思議な主人公です。
歴史家になりたかったのに軍人となり、
望んでもいないのに英雄と呼ばれ、
権力を握れるほどの能力を持ちながら、
権力そのものには強い警戒心を持っています。
ヤンが見ているのは、
「今、この瞬間に誰が正しいか」だけではありません。
もっと長い時間です。
今日、善良で優秀な独裁者がいたとしても、
次の独裁者まで善良で優秀だとは限らない。
だから、一人の優れた人物に依存するのではなく、
普通の人間が運営しても簡単には壊れない仕組み
を残す必要がある。
これは経営にも、そのまま置き換えることができます。
「自分がいないと回らない」は、本当に強い組織だろうか
仕事ができる人ほど、仕事が集まります。
困ったら、その人に聞く。
重要な商談には、その人が行く。
トラブルが起きれば、その人が解決する。
最後の判断も、その人がする。
すると短期的には、とても効率の良い組織になります。
ところが、その人が休んだ瞬間、組織が止まる。
これは、その人が優秀であることの証明ではあります。
しかし、必ずしも
組織が優秀であることの証明ではありません。
自分が理解している
↓
他の人が理解できる
↓
他の人が説明できる
↓
他の人が判断できる
↓
その人が、さらに別の人を育てられる
ここまで来て初めて、
知識や経験は「個人の能力」から「組織の能力」へ変わっていくのではないでしょうか。
人を「理想像」に近づけるのではなく、違いを活かす
そして『銀河英雄伝説』のもう一つの魅力は、
登場人物たちが決して同じタイプではないことです。
大胆な人。
慎重な人。
理想を語る人。
現実を見る人。
前線に強い人。
組織を整える人。
それぞれに強みがあり、弱みがあります。
これは、組織を考えるうえで大切なことを教えてくれます。
私たちは組織に入ると、つい「理想の人物像」をつくってしまいます。
もっと積極的に。
もっと論理的に。
もっとコミュニケーションを。
もっとリーダーシップを。
そして、その理想像との差を「課題」と呼びます。
けれど、全員を同じ形に近づけた組織は、
本当に強いのでしょうか。
『スラムダンク』や『ハイキュー!!』にも通じるもの
このことを考えると、
『スラムダンク』や『ハイキュー!!』にも通じるものがあります。
桜木花道には桜木花道の強さがあり、
流川楓には流川楓の強さがある。
日向翔陽と影山飛雄も、
同じ能力を持っているから強いのではありません。
違うからこそ、組み合わさったときに新しい力が生まれる。
優れた組織とは、
全員を同じ理想像に近づける場所ではなく、
一人ひとりの違いを見つけ、
それぞれが輝く場所をつくることなのかもしれません。
リーダーの仕事は、「自分のコピー」をつくることではない
人を育てようとすると、
私たちは無意識のうちに、
「自分ならこうする」を教えようとします。
しかし、それでは自分より少し小さなコピーが増えていくだけかもしれません。
本当に人を育てるとは、
その人が
自分とは違う方法で成功できる場所
をつくることではないでしょうか。
そして、さらにその人が別の誰かの可能性を見つけられるようになったとき、
組織には初めて「循環」が生まれます。
自分が成功する
↓
誰かの成功を支える
↓
その人が成長を実感する
↓
その人が、別の誰かを成功させる
↓
成功が組織の中を循環する
文化とは、「自分がいない場所」で現れるもの
マニュアルをつくる。
考え方を言葉にする。
成功事例を共有する。
失敗した理由を残す。
誰かが誰かに教える。
こうした仕事は、すぐには売上にならないかもしれません。
けれど、それを積み重ねることで、
一人の頭の中にあったものが、
少しずつ組織の共有財産になっていきます。
そしていつか、自分がその場にいないのに、
誰かが自分と同じ問いを発するようになる。
「それは、お客様にとって本当に良いことだろうか。」
「現場の人は困らないだろうか。」
「もっと良い方法はないだろうか。」
「この経験を次の人に残せないだろうか。」
そのとき、考え方は初めて
「文化」
になるのだと思います。
晴れのち愛が大切にしたいこと
「晴れのち愛」は、
人も、文化も、商品も、
一つの価値観だけで測らないことを大切にしています。
違う国。
違う文化。
違う宗教。
違う考え方。
違う得意なこと。
違いは、ときに面倒です。
同じ考え方の人だけが集まったほうが、
物事は早く決まるかもしれません。
けれど、違うものが出会うからこそ、
そこには対話が生まれます。
そして対話から、
一人では思いつかなかった新しいものが生まれます。
握手と、ハグと、乾杯。
それは、全員が同じになることではありません。
違ったまま、お互いを尊重し、
一緒に何かをつくることなのだと思います。
英雄がいなくても続く組織へ
ラインハルトのように、
強い意志で未来を切り拓く人は必要です。
ヤン・ウェンリーのように、
その力そのものを疑い、
長い時間軸から仕組みを考える人も必要です。
おそらく大切なのは、
どちらか一方を選ぶことではありません。
未来を描く力と、自分がいなくても未来が続く仕組み。
その両方を持つことではないでしょうか。
自分が一番活躍する組織ではなく、
自分が誰かを成功させ、
その人がまた誰かを成功させていく組織。
そう考えると、
経営者やリーダーの仕事を測る物差しも変わってきます。
「自分が、どれだけ成果を上げたか」ではなく、
「他者の成功を生み出せる人を、何人育てることができたか。」
英雄がいなくなっても、
そこに残された人たちが考え、助け合い、
また次の人を育てていく。
そんな組織は、
一人の天才が率いる組織よりも、
もしかするとずっと強いのかもしれません。
そしてそれは会社だけでなく、
家族にも、地域にも、
私たちが次の世代へ文化を手渡していくことにも、
どこかつながっているように思います。
※本記事は、田中芳樹著『銀河英雄伝説』を題材として、リーダーシップ、組織づくり、人材育成について「晴れのち愛」の視点から考察したものです。作品中の台詞を直接引用するのではなく、物語のテーマや人物像をもとに独自に構成しています。
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