もてなすとは、何を足すかではなく、何を捨てるか――「和敬清寂」と茶の湯の引き算
HARENOCHIAI · TEA PHILOSOPHY
もてなすとは、
何を足すかではなく、
何を捨てるか。
「和敬清寂」と茶の湯の引き算
Less ego. More awareness.
もてなすというと、
私たちはつい、
「相手のために何をしてあげられるか」
と考えます。
料理を増やす。
言葉を尽くす。
より良いものを用意する。
もっと喜んでもらえることを考える。
けれど、茶の湯が教えてくれる「もてなし」は、
少し違うのかもしれません。
何を足すかではなく、
自分の中から、何を捨てられるか。
この記事で考えること
THE ART OF SUBTRACTION
足して、自分を大きくするのではなく、
引いて、相手が見える自分になる。
WA · KEI · SEI · JAKU
「和敬清寂」を、一つずつ考える
先日、裏千家16代家元・千宗室さんが
茶の湯について語られている対談を拝見しました。
その中で特に心に残ったのが、
茶の湯の根本精神とされる
「和敬清寂」
についてのお話でした。
千宗室さんは、
これを唯一の正解として語るのではなく、
ご自身の経験の中で感じている一つの見方として、
とても丁寧に言葉を選ばれていました。
そして、以前は「和・敬・清・寂」の四つを
一つのまとまりとして捉えていたものの、
近年、それぞれを一つずつ独立して
考えるようになったという趣旨のお話をされていました。
和む。
敬う。
清める。
そして、捨てる。
WA · HARMONY
「和」――まず、自分と和む
「和」と聞けば、
人と仲良くすること、
争わず調和することを思い浮かべます。
しかし、人と和むことは、
それほど簡単ではありません。
長く付き合ってきた人ならともかく、
初めて出会った人と、
最初から自然に心を通わせるのは難しい。
だからこそ、千宗室さんのお話で印象に残ったのは、
まず自分が、自分と和む
という考え方でした。
BEFORE MEETING OTHERS
相手を変えようとする前に、
自分の心を柔らかくする。
自分の中に緊張や苛立ち、
優劣や勝ち負けへのこだわりがあれば、
それは知らず知らずのうちに相手にも伝わります。
まず自分の心を和らげる。
そこから「和」は始まるのかもしれません。
KEI · RESPECT
「敬」――自分を敬うように、相手を敬う
次の「敬」についても、
とても印象的な捉え方が語られていました。
まず、自分という存在を敬う。
私たちは自分を大切にしたいと思います。
傷つけられたくないし、
認めてもらいたいとも思います。
ならば、
自分を大切に思うのと同じくらい、
目の前の相手も大切な存在として見る。
「敬う」とは、
相手を自分より上に置くことではなく、
自分にも相手にも同じように
尊さを見ることなのかもしれません。
SEI · PURITY
「清」――相手の粗より、まず自分を見る
人は、相手の欠点にはよく気づきます。
「あの人のここがよくない」
「なぜ、あんなことをするのだろう」
「もっとこうすればいいのに」
しかし、千宗室さんは「清」について、
相手の粗を探すより、
まず自分の中を見るという趣旨のお話をされていました。
相手を清めようとするのではなく、
まず自分に、清めるべきところはないかを見る。
自分を振り返れば、
直すべきところはいくらでも見つかります。
相手を評価する視線をいったん自分へ戻す。
そこにも、茶の湯の静かな厳しさを感じます。
JAKU · SUBTRACTION
「寂」――いらないものを身につけない
そして、私が最も心を動かされたのが
「寂」についてのお話です。
「寂」は一般に、
何事にも動じない静かな境地として
説明されることがあります。
しかし千宗室さんは、
ご自身の捉え方として、
「いらないものを身につけない」
という方向から語られていました。
茶の湯は、引き算。
利休が侘び茶をつくり上げていった過程も、
余分なものを削ぎ落としていく
「引き算」として見ることができます。
私たちは、知らないうちに多くのものを身につけています。
正しく見られたい気持ち。
知っていることを示したい気持ち。
自分の成果として認められたい気持ち。
どれも、人間として自然な感情です。
けれど、それが大きくなりすぎると、
いつの間にか
「相手を見る」より、
「自分がどう見られているか」
が先になってしまいます。
SUBTRACTION
そこを少しずつ落としていくと、
初めて相手や場が、
よく見えるようになる。
HOSPITALITY
茶の湯は「サービス業」ではない
東京オリンピックを契機に、
日本の「おもてなし」という言葉が
世界的にも大きな注目を集めました。
しかし千宗室さんは対談の中で、
茶の湯を単純に「おもてなし」と結びつけることに
違和感を示されていました。
茶の湯は、サービス業ではない。
この言葉が、とても心に残りました。
もちろん、茶席では客を思い、
心を尽くします。
しかし、それは
「これだけしてあげた」
「こんなに素晴らしい道具を用意した」
「喜んでもらえたから、自分は立派だ」
という自己満足のためではありません。
WHAT IS HOSPITALITY?
もてなすとは、
何をしてあげるかだけではない。
自分の中から、
何を捨てられるか。
千宗室さんは、
利休が自らの生き方を懸けて後世へ伝えた茶の湯には、
もてなす側にも「覚悟」が必要だという趣旨を語られていました。
自分を褒めてもらいたい。
自分の道具を評価してもらいたい。
自分のセンスを認めてもらいたい。
そうした自分を大きく見せようとする思いに気づき、
少しずつ手放していく。
その「引き算」の先に、
茶の湯のもてなしがあるのだと感じました。
LEADERSHIP
リーダーになるほど、何を捨てられるか
この「引き算」という考え方は、
経営や仕事にも通じるように思います。
責任ある立場になるほど、
私たちは多くのものを背負います。
けれど、その荷物を抱えすぎると、
部下の言葉や、
顧客の小さな変化や、
その場に漂う違和感が
見えなくなってしまうことがあります。
知識を増やすことも大切です。
経験を積むことも大切です。
しかし、それと同じくらい、
余計なものを捨てること
がリーダーには必要なのかもしれません。
LEADERSHIP BY SUBTRACTION
自分を大きく見せるほど、
相手が小さく見える。
自分を少し引いたとき、
初めて相手と場が見えてくる。
LIVE IN THE PRESENT
「今を生きる」ということ
対談の後半でもう一つ心に残ったのが、
未来との向き合い方についてのお話でした。
千宗室さんは、
「10年後にこうなっていたらいい」と考えて
物事に取り組んできたわけではなく、
一日一日を大切にしてきたという趣旨を語られていました。
明日のことは、誰にも分からない。
だからといって、
未来を考えないということではないと思います。
HERE AND NOW
今、起きていることを見る。
今、できることをする。
未来を支配しようとしない。
この話を聞きながら、
私はハワイアン・ペレ・オラクルカードの中で触れてきた、
リリウオカラニ女王の
「今を生きる」
というメッセージを思い出しました。
茶の湯とハワイの精神文化は、
もちろん同じものではありません。
それでも、まったく異なる文化の中から、
「今ここに心を置く」
という似た響きが聞こえてくることに、
不思議なつながりを感じます。
TRADITION & CHANGE
変わらない幹と、変わっていく枝葉
そして対談の終盤、
千宗室さんは茶の湯の伝統を
「大木」
にたとえていました。
利休が種をまき、
代々の人々が水をやり、
長い年月をかけて大きな木になった。
その幹にあるのは、
利休から受け継がれてきた
茶の湯の根本精神です。
一方で、
時代が変われば枝が伸び、
新しい葉が茂る。
必要のなくなった枝葉は落ち、
必要なものは次の時代へ残っていく。
伝統という大木
変えてはいけない根本精神
時代に合わせて生まれる工夫
必要なものは残り、役目を終えたものは落ちていく
コロナ禍で茶会のあり方そのものが問われたとき、
裏千家では、過去に疫病への対応から生まれた
「各服点て」など、先人たちの工夫を現代に生かしました。
昔の形をそのまま守ることだけが、
伝統なのではない。
TRADITION
守るべきものは、幹。
変えてよいものは、枝葉。
何を守るべきかが分かっているからこそ、
変わることができる。
これは茶の湯だけではなく、
会社や組織、ブランド、
そして自分自身の生き方にも
通じるように思います。
TEA PHILOSOPHY
和む。
敬う。
清める。
捨てる。
「和敬清寂」という四文字を、
今回あらためて考えてみると、
茶の湯が私たちに求めているものは、
何かを身につけて立派になることだけではないように思えてきます。
むしろ、
自分の中にいつの間にか積み重なったものに気づき、
一つずつ手放していく。
正しく見られたい気持ち。
知っていることを示したい気持ち。
自分の成果として認められたい気持ち。
それらをすべて否定する必要はありません。
ただ、ときどき自分を振り返り、
必要以上に抱えているものを
静かに置いてみる。
自分を少し引いたとき、
相手が見える。
場が見える。
そして、今が見える。
もてなすとは、
何かを足し続けることではなく、
自分の中の余計なものを捨て、
目の前の人と、今この瞬間に心を向けること。
そこに、
「和敬清寂」という言葉が今も私たちに語りかける、
茶の湯の深さがあるのかもしれません。
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どこか響き合うものを感じます。
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